ドラジャパクイーンのお部屋へようこそ!ドラマ・演劇・言語教育について思うこと

ドラマ・演劇を日本語教育に活用するアイデアをシェアする場です。

ドラジャパクイーンの本職:もぐりの日本語教師誕生秘話3

f:id:DraJapaQueen:20190916082137j:plain

遅咲きのゆり(ビクトリア市立図書館)

わたしが日本語を教え始めた1980年代。そのころ、初級日本語の助手としてカナダ人の学生さん相手に日本語を教えていた頃、主に使っていた方法は、オーディオ・リンガル・メソッドと呼ばれるものです。


オーラル・オーラル教授法(Aural-Oral Method)、模倣記憶反復教授法(Mim-Mem Method)、また、もともと兵士の語学訓練のために考案されたものであったため、アーミー・メソッド(Army Method)などとも呼ばれます。

この教授法を提唱したフリーズさんは、学習者が学ぶべきことは、「まずその言語の母国語話者の話し言葉を理解し、その音声的特徴を聞き分けて、自らの発音をそれに近づけるよう努力し、次に文法構造つまり、その言語の形態や配列を学習して、それらを無意識に自動的に反射的に使えるようになる」ことであって、それが可能になってはじめてその言語を習得したことになると言っています。

つまり、自動的に‘話せる’ことが学習の目標になっています。いいかえると反射行動のように、外国語が話せるようになるようにするということです。

その目標を達成するために、学習を五つの段階すなわち、

① 耳からの聞き取りによる理解
② モデル発音の模倣
③ 発音や文型の反復練習
④ 文の一部を変化させる練習
⑤ 質問に対して適切な答をする練習

に分け、次々に学習を深化させ、最終的に自動的に‘話せる’ようにする方法が考案されました。

①は、目標言語を聞いて、その意味を理解することで、聞き取り練習として行われています。

②は、教師や録音されたモデル発音をまねて発音することであり、発音練習と言われています。

③は、②の発音の模倣を繰り返し練習して、「正しい発音ですらすら言える」ようにすることで、ミム・メム練習(mim-mem practice;mimicry memorization practiceの略)などの技法が開発されました。

ミム・メム練習とは、教師が口頭で紹介する、学習すべき項目を含む基本文を、学習者がまねて発音し、それを繰り返し練習することによって、母音と子音、アクセント、イントネーション、リズムなどを正しく言えるようにすると同時に、その基本文を完全に暗記する、というものです。Repeat after meですね。

教師は常にナチュラルスピードでモデル発音を提示することが求められ、学習者も、初級者であっても、同じ速度で正しく発音できるようになるまで練習することが要求されます。

④は、各種の文型練習(パターン・プラクティス;pattern practice)のことで、ミム・メム練習によって導入された基本文を文型として認識し、その文型の中のある構成要素を入れ換えることによって、新しい文を組み立てる習慣を獲得するための練習で、オーディオ・リンガル・メソッドを代表する技法です。

パターン・プラクティスには、(基本)文の一部を入れ換える代入練習、文を一定の条件によって作り換える転換練習、二つの文を一定の規則に従って一つの文にする合成練習、質問に対して一定のルールに従って答える応答練習、文を、与えられるキュー(cue)によって次第に拡大していく拡大練習などの種類があります。

 

助手としてオーディオ・リンガル・メソッドを使っていた1980年代、最先端の外国語教授法は口語コミュニケーションにフォーカスした「コミュニカティブ・アプローチ」と呼ばれる教授法でした。

 

さて、「コミュニカティブ・アプローチ」とはなんぞや?

 

コミュニカティブ・アプローチというのは、読んで字のごとくコミュニケーションを重視した指導方法のことです。大雑把に言うと、正確な文型や文法で話すことよりも、多少間違えたり文法がおかしくても、自分の【意志】が相手に伝わることがより重要だとする教授法です。

コミュニカティブ・アプローチの言語観としては、以下の4点が挙げられます。

(1) 言語は話者にとっての意味・意思・意志を表現するためにあるということ。

(2) 言語の第一の役割は,他者との交流と意思疎通(コミュニケーション)であるということ。

 (3) 言語の構造(文法など)は,単独に存在するのではなく、コミュニケーションと密接なつながりがあるということ。

(4) 言語の基本的な単位は,文法事項や文型という形で設定することもできるが,文よりも大きい単位の談話でこそ、コミュニケーション機能が発揮されるということ。

 

コミュニカティブ・アプローチの言語学習観としては、以下の3点が挙げられます。

(1) コミュニケーション原理

本当のコミュニケーションを伴う活動により言語学習は促進されるということ。

(2) タスク原理

言語が意味のある課題を遂行するために使われる活動により,言語学習は促進されるということ。

(3) 有意味の原理

学習者にとって、意味のある言語学習活動は言語習得を促進するということ。

 

オーディオ・リンガル・メソッドで条件反射のように教師のまねをするような学習活動は学習者自身にとってのあまり教育的意味のある活動ではない、ということになってしまいますね。

 

さて、わたしは今どんな教授法を使っているのでしょうか。

久しぶりに初級を教えていますが、結局のところ、いろいろな方法を使っています。

オーディオリンガルメソッド。これはあまりのんびりしていると効果がないので、エアロビ的にペースを速めに、文型の練習によく使います。

直接法と言って、日本語だけで物を使ったり、身振りなどで分からせてわたしが意図したことをさせる活動は、新しい項目を導入するの使います。たとえば、「これ」、「それ」、「あれ」、「どれ」の導入。また 「これはなんですか?」というのも直接法で答えを出させることができます。

簡単な自己紹介も可能ですね。

他にコミュニカティブ・アプローチっぽいのは、ペアで情報をみつけるタスクなど。

古い方法と批判されるかもしれませんが、学習項目がキチンと入ったかどうかを判断するには、翻訳させるのが一番です。英語から日本語に訳させると、文法事項、慣用句、語彙が総合的に習得されているかどうかが一発でわかります。

そして、初級でもスキットを作らせて、みんなの前で発表させます。

次回から、わたしが日本語教育に「演劇」的な要素を入れるに至ったか、お話していきたいと思います。